昨日のエントリでは、「日本で行われるプレゼンでは、いまだに”演台”に後ろに立って行われるのが普通だが、もう演台は使わないようにしたい」と書いた。今日のエントリは、実際に演台を使わないための方法をいくつか紹介したい。

ガー・レイノルズは、「プレゼンテーション zen」の中で次のように書いている。
書見台はスピーカーを権威ある指導者のように見せる効果がある。それゆえ、政治家はたいてい書見台の後ろに立ってスピーチをしたがる。自分を「大物リーダー」に見せることが目的ならば、書見台を使ったほうが適切かもしれない。
だが私が理解する限り、日本で行われるプレゼンテーションで演台(書見台)が使われるのは、別に「権威ある指導者のように見せる」ためではない。誤解を恐れず乱暴な言い方をするならば、もっとずっとつまらない理由からである。

私が考える、日本で演台が使われる理由は下記の3つ。
1) 演台無しでのプレゼンは、まだ一般的でなく、何となく気恥ずかしい
2) パワーポイントのスライドショーの”操作”をするため
3) パワーポイントのスライドショーの”画面”を確認するため

それぞれ「傾向と対策」を考えてみよう。

演台の理由その1) 演台無しでのプレゼンが一般的でなく、何となく気恥ずかしい

これは「理由」と言うよりは、「言い訳」にしかならない。昨日のエントリで紹介した下記のような本は日本でもそこそこ売れていて、スティーブ・ジョブズのようなプレゼンをすることへの関心は高いはずだ。
ジョブズ&zen

さらには昨日も書いたように、欧米流の演台無しプレゼンの数々を紹介する「スーパープレゼンテーション」と番組がNHKテレビで放映されるようになったほどだ。

ジョブズやTEDのようなプレゼンをするには、それなりに習得の難しい技術があり、誰でも簡単に真似ができるわけではない。だが、「演台を無くす」と言うのは、ある意味もっとも簡単な”真似”の第一歩だろう。もちろん、ここでの”真似”は、決して悪い意味ではない。良いものは真似をするべきだ。そして、演台無しのプレゼンは、真似をすべき価値は十分にあると思う。



演台の理由その2) パワーポイントのスライドショーの”操作”をするため

これは、ちょっとしたお金をかけるだけで、一番簡単に解決可能な課題だ。パワーポイントスライドショーのリモコン操作をする機器はたくさん売られている。

例えばこれ。
コクヨのプレゼン用リモコン

Amazonでの購入はこちら。

「プレゼンテーション zen」では、下記のように書かれている。
コンピュータ用のリモコンは比較的安価であり、絶対的な必需品と言える。問答無用で手にいれるべきだ。現在スライド操作をリモコンで行っていないのであれば、リモコンを取り入れることによって、格段の違いが出てくる。

何をもって「高価 or 安価」と言うかは人によって判断が分かれるが、この種のリモコンは実際は安いものでも6,000円以上はするので、誰もが無条件に「安い」とは思わないかもしれない。正直言うと、私も買おうと思って値段を調べた挙句に買うのを躊躇した。

実はリモコンに関しては、もっとずっと安くすます「ワザ」がある。
iPhoneをPC操作用のリモコンに変えてしまう、iPhoneアプリがあるのだ。

複数あるようだが、私が購入して実際に使ってみたのがこれ。
PowerPointリモート
「PowerPoint用スライドショー・リモート」

アプリは450円で買えるので、iPhoneさえ持っていれば、「専用ハードウェアリモコン」よりも相当に安くつく。欠点は、「PCとの接続の面倒さ」だろうか。無線LANの設定や、PC側のアプリのインストール&設定など、それなりに難しいハードルを越えないと動作してくれない。加えて、iPhoneが画面ロックされると操作できなくなるので、時間による画面ロックを解除しておくことも必須だ。


さらに端折った方法として、「普通のワイヤレスマウスをリモコンとして使う」と言うテもある。これなら既に所有している人も多いはずだし、新規に購入するにしても、安いものなら1,000円以下で買えてしまうほど値段が下がってきている。
ワイヤレスマウス

欠点は、スライドショーを「進める」操作は出来ても、「戻す」などの他の操作がが出来ないこと。ただし、「戻す」操作などは滅多に使わないし、もしも必要になった場合はPCに戻れば良いので、この欠点は、それほど致命的なものではなさそうだ。実を言うと、私は上述のiPhoneアプリを購入してしばらく使ったが、最近ではもっぱら「普通のワイヤレスマウス」を、プレゼン時のリモコンとして使用していた。最後に残る欠点としては、「あまりカッコよくない」ことだろうか。

さらにもうひとつ、パワーポイントをリモート操作をするための方法を紹介したいのだが、これはもうひとつの課題(スライドショーの画面確認)の解決にもなるので、それと併せて紹介したい。


演台の理由その3) パワーポイントのスライドショーの”画面”を確認するため

これは演台無しプレゼンを実施するための、一番切実な「課題」だろう。スティーブ・ジョブズのプレゼンやTEDのプレゼンでは、聴衆が見るメインのスクリーンとは別に、「プレゼンターが見るためのモニタスクリーン」が用意されている。これは会場の制約もあるし、用意するにもそれなりの費用がかかるので、いつもこのような「専用モニタ」のある環境でプレゼンができるわけではない。

プレゼンター用のモニタ無しで「演台無しプレゼン」をやるのは無謀だろう。聴衆が見るのと同じモニタを後ろを向いて都度確認していては、「壁を取り除く」効果が全く無いどころか、逆効果になりかねない。

ひとつの解決案は、ノートPCを床の上か、せいぜい小型の椅子の上に置いて、それをプレゼンター用のモニタ画面とすることだ。

図に描くと、こんな感じ。
低い位置にノートPCを置く図

まずはこれが、最も現実的かつ汎用的な解だろう。「プレゼンテーション zen」の作者のガー・レイノルズの講演を実際に見たことがあるが、彼はまさにこの方法を使っていた。

この方法の課題のひとつは、プレゼン中の小さい字が読みにくいことだろうか。ただしこれは「課題」ではあっても「欠点」ではない。そもそもプレゼンのスライドショーに、小さな字を使うこと自体が間違いなのだ。この方法を使ってプレゼンターが読めない文字は、聴衆からも読めない。どんな場所からも読めるように文字を大きくする(そのために文字数そのものを少なくする)ことは、良いプレゼンのための重要な要素だ。

少し話はズレるが、「プロジェクタで読めないほど小さい文字」は、「演台ありプレゼン」と共に、日本で行われるプレゼンテーションではかなり多く見かける。「そんな場合は、手元の紙の資料を読め」と言うことらしいのだが、これも完全に間違った考え方だ。これがなぜ間違っているかを書き始めるとまた長くなるので、別の機会で。

ノートPCを低い位置に置くことのもうひとつの課題(こちらは欠点になりうる)は、プレゼンの途中にデモなどの他の操作をしたい場合に、非常にやりにくく、かつその姿が美しくないことだろうか。多くの場合は、スライドショーだけで済んでしまうので、これはそれほど欠点にはならないかもしれない。

実は今回、その僅かな欠点さえも解決する新しい方法を考えた!

それがこれ(イメージ)。
iPadを使ったプレゼン

iPadでスライドショーを動作させて、それをそのままプロジェクタに写そうと言うもの。
これなら、モニタとして画面の確認も出来るし、スライドショーの操作はもちろん、それ以外の操作もひととおりこなすことができる。実現するためには、いくつか課題もあるが、その課題もほぼ解決できたので、こうしてブログで報告できるようになった。


最初の課題は、iPadの画面をプロジェクタに写すこと。
そのこと自体は、Apple純正のVGAケーブルを使えば解決できる。
iPadとVGAケーブル

だが、アナログケーブルが延びたタブレットを持ちながらのプレゼンは、移動範囲に制約も多いし、なによりも美しくない。この課題は、多少のお金をかければ解決可能だ。

解決策はこれ。
Apple TV

現在1万円以下で売られているApple TVは、無線LAN経由でiPadの画面をそのまま出力する「AirPlay」と言う機能を備えている。
下記のような構成にすれば、ワイヤレスでiPadを持ちながらのプレゼンは可能だ。
AppleTVによるプレゼン構成

iPadでのスライドショー再生に関しては、iPad用のプレゼンアプリであるところの「Keynote」を使っても良いし、Citrix Receiverを使えばPower Pointも利用できる。


2番目の課題は、Apple TVの出力に(多くのプロジェクタで使われる)VGA出力が無く、HDMI出力しか無いこと。最近発売されているプロジェクタならHDMI入力を備えているので問題無いが、古いプロジェクタの多くはHDMI入力を備えていない。

実はこの課題は完全に解決できたとは言えなくて依然として試行錯誤中だ。HDMIからVGAへの変換アダプタもあるらしいのだが、そこそこの値段もするしうまく変換できるかどうかもアヤしそうなのでまだ試していない。(読者の皆さんで、変換アダプタの情報があれば是非お寄せください)


そんなこんなで、実際のプレゼンテーションの場(100人ほどの人たちに聞いていただけた)で実施した様子がこれ。
実際のプレゼンテーションの様子


実際にプレゼンの場で使って明らかになった課題が2つある(後述)が、まあうまく行ったのではないかと思っている。さらに課題を乗り越えて、このやり方を標準化してみたい。


解決すべき課題は次のA)B)2つ。
A) 舞台の造りが”演台無し”を前提にしていなかった
B) iPadを持ち続けることに不便さを感じた


iPadプレゼンの課題A) 舞台の造りが”演台無し”を前提にしていなかった
写真を見ていただければわかるように、この時の舞台の造りがそもそも演台とデモ操作用の机を使うことを前提としており、演台から離れてもデモ用の長机で腰から下が隠れるようになってしまった。長机からさらに離れてスクリーンの下に移動することも、全く出来ないわけではなかったが、「照明が当たらない」とのことで止められてしまった。

正しく「演台無しプレゼン」を行うためには、舞台設計からそれを前提として取り組む必要があるようだ。


iPadプレゼンの課題B) iPadを持ち続けることに不便さを感じた
専用リモコンや(リモコンとして動作する)iPhoneよりは、iPadは格段に重くて大きかった。手の平だけでは「掴んで持つ」ことが出来ないので、「手のひらに載せる」か「腕全体で包み込む」しかない。いずれの持ち方でも、長時間のプレゼンをやりながらはラクではなかった。また、自由な移動や「身ぶり手ぶり」も制限されてしまう。

その後いろいろ調べてみたら、こんなものが売られているのが判った。
iPadハンドヘルドケース
「Rev 360 for iPad」

6,600円らしいのだが、これは是非購入して試してみたい。


この通り、課題はいずれも解決可能なはずなので、次回にプレゼンする機会があれば早速試してみたい。単にTED風の「演台無しプレゼン」を実現するためだけでなく、自分自身の個性を出すための要素にもなるはずなので。