1週間前の4月14日に、横浜みなとみらいにある「カップヌードルミュージアム」に行ってきた。
cupnoodles

行く前は大して期待はしていなかったと言うのが正直なところ。アトラクションひとつ「チキンラーメンファクトリー(チキンラーメンを実際に手作りできる!)」の事前予約が出来ていて(土日祝の予約は極めて困難)、単純に家族サービスの一環としてのみ行ったつもりだった。だが、そんな事前の予想は、見事に良い方向に裏切られた。

このミュージアムは素晴らしい!!

子供はもちろん、大人でも十二分に楽しめる。私個人ほぼ一日楽しめたし、何よりも安藤百福の業績やビジネス哲学を知って、大いに感銘を受けた。今日のエントリでは、安藤百福について私が受けた感銘を、皆さんに紹介したいと思う。

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「カップヌードルミュージアム」と言う名前は実は「通称名」で、その正式名称は「安藤百福発明記念館」と言う。安藤百福とは、即席麺(『チキンラーメン』と『カップヌードル』)の発明者にして日清食品の創業者のことだ。

安藤百福は、知る人ぞ知る偉大な発明家で、子供向けの伝記漫画にもなっている。


もっとも、「知る人ぞ知る」とは言っても、日本にはさらに有名な起業家がいて、例えば本田宗一郎(ホンダ)や松下幸之助(パナソニック)や盛田昭夫(ソニー)に比べると、安藤百福の知名度はイマイチかもしれない。実は私自身も、かろうじて「チキンラーメンの発明者であることを知っていた」程度の知識しかなく、安藤百福の本当の偉大さを知ったのは、ミュージアムに行って展示を見てからだった。
  • 以前の私と同様に、安藤百福に関しておぼろげな知識しかない人は、こちらのウィキペディアの記事を読むのが良いだろう。その業績が簡潔にまとめてある。

でも今なら、断言できる。
安藤百福の偉大さは、本田宗一郎や松下幸之助や盛田昭夫をも凌駕する!

その理由は下記の3つ。
1. 安藤百福は、即席麺とその製法を、誰の力も借りずに全く一人だけで発明した。
  (本田宗一郎も松下幸之助も盛田昭夫も、「独力」での画期的な発明は知られていない)

2. 発明した即席麺も、その製法(瞬間油熱乾燥法)も、今でも形を変えずに残っている。
  (ホンダのCVCCエンジンは今は無く、ソニーのウォークマンも仕組みを大きく変えてしまった)

3. 自らが苦労して発明した即席麺の製法特許を、競合他社に惜しげもなく公開・譲渡した。


私が特に感銘を受けたのは、3. の製法特許の公開・譲渡についてだ。これがなぜそれほどまでに素晴らしいかと言う理由については、追加説明が要るかもしれない。

安藤百福が発明し、1958年に発売されたチキンラーメンは、すぐに人気商品となった。だが、それを模倣した粗悪な製品が他社から売られることを誘発してしまうことにもなった。日清食品は、当初それら粗悪な模倣品に対して裁判などで争っていたが、いくら裁判で勝てても、結局は「もぐら叩き」にしかならなくなってしまった。粗悪品は、後から後から出てくるのだ。

この状況に対する「抜本的な解決」が、製法特許の公開・譲渡だったのだ。つまり、それまで粗悪な製品しか作れなかった競合他社でも、日清食品と同レベルの品質のインスタントラーメンを作れるようにすることで、粗悪品が作られることを根本から防止したわけだ。チキンラーメン発売から僅か6年後の1964年のことだ。確かに「お客様第一」の観点からすると、素晴らしい判断だと言える。

だがいくら「お客様第一」と言っても、これは自社の利益を著しく損なうことにならないだろうか? せっかくの自社の強みを、みすみす競合他社に与えてしまったのだ。それがきっかけでシェアを大きく奪われれば、自社に対する「背任」とも言えるのではないだろうか?

いや、そんなことはない!
この製法特許の公開・譲渡は、日清食品自身が事業拡大にも結びついた英断だったのだ。

安藤百福自身の有名な言葉を引用しよう。
「日清食品が特許を独占して野中の一本杉として発展することはできるが、それでは森として大きな産業には育たない」

全くその通りだと思う。類似した競合製品の無い1社独占の状態(野中の一本杉)では、その製品カテゴリ自体(森)が市場に受け入れられないのだ。これは、インスタントラーメンのような(当事としては)新しい技術を使った目新しい製品カテゴリの場合に、特に良く当てはまる。

私は、下記2つのエントリにも記したとおり、以前からこの「競合必要説」を唱えている。

(AppleのiPhoneは、Androidの登場によって売上げを拡大した)

(Citrixのデスクトップ仮想化製品は、VMwareによる市場参入で売上げを伸ばしたし、今後も伸ばせる)


もちろんこの説を唱えているのは私だけではなく、上記エントリでも紹介したとおり、「キャズム」と言う超有名なビジネス書にも書かれている。しかし、「競合必要説」が最も当てはまるはずのハイテク業界において、それを信じて競合の存在をうまく活用していることは意外に少ない。

現在ほどビジネス理論の確立していなかった1960年代に、まさに自らの身を削るような大英断を下した安藤百福の洞察力は、いくら尊敬してもし過ぎるものではないだろう。


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【閑話休題】
カップヌードルミュージアムを訪れるきっかけとなった「チキンラーメンファクトリー」では、まさに安藤百福が独力で発明した際と全く同じ作り方で、チキンラーメン造りを体験できる。それはまさに、小麦などの材料を「混ぜて練る」ことから始まって、麺の形に生成して最後は油で揚げるまでの製造工程だ。

<この写真は、製造工程最後の「瞬間油熱乾燥」をしているところ> 
油


その1週間前に家族で作ったチキンラーメンだが、まさに今日4月21日の昼ご飯で、やはり家族そろって食べてみた。

日清チキンラーメンは、もう何十年も食べてなかったが、
「こんなに美味しかったんだ・・・」
と言うのが、食べてみての感想。

<自ら作って、自ら食べたチキンラーメンパッケージの「抜け殻」>
チキンラーメン



最も偉大な日本人発明家にして起業家、安藤百福に乾杯!
MomofukuAndo