昨日のエントリもそうでしたが、このブログでは「イノベーションのジレンマ」について何度か取り上げています。これは元々下記の本で提唱されたビジネス理論なのですが、読んだ時の印象が強烈だったことに加えて、この理論を意識することで、世の中のテクノロジーの移り変わりについての見方がが大きく変わったことが、しつこく皆さんに紹介したくなる理由なのです。
 

さて、数日前に報道された、コピー機メーカーゼロックスの衰退と富士フイルムによるゼロックスの買収劇もその典型例です。このニュースを「イノベーションのジレンマ」と言う観点で見ると、大変興味深い側面が見えてきます。さらに今回の場合は、”あの”スティーブ・ジョブズと言う大物も絡んできますので、興味はより一層増すと言うわけです。昨日のエントリでも少し触れましたが、今日のエントリでは、ゼロックスと、スティーブ・ジョブズと、さらにはイノベーションのジレンマの関係について深入りしてみたいと思います。

コダックの経営破綻の時は、イノベーションのジレンマに絡めて論ずる記事がたくさんありましたが、今回のゼロックスの衰退については、Webをざっと見た限りでは、そのような記事はまだほとんど無いようです。なので、私が先陣を切ってみたいと思います。


コピー機が使われなくなった要因 
私が大学を卒業して新卒で企業に就職したのは1990年のことでした。そしてその当時、「コピー機」はオフィスで最も重要な備品でした。その頃はPCさえも十分普及しておらず、仕事で扱う文書のほとんどは「手書き」で作っていました。そのように手書きで作った文書を社内で回覧するのも、取引先に配るのも、すべて「コピー機」を使って印刷しており、コピー機無しでは全く仕事が回らなかったのです。ゼロックスを始め、キヤノン、リコーと言ったコピー機メーカーは、それらメーカー間で激しい競争があったとは言え、コピー機の製造販売は、それなりに儲かるビジネスだったと言えるでしょう。 

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それから30年近く経過した2018年現在、コピー機の存在意義は見る影も無くなってしまいました。「紙の文書」をそのままコピーすることは滅多になくなりましたし、仮に紙に文書を印刷するとしてもPCから直接印刷してしまうことがほとんどです。もちろんPCからの印刷を行うオフィス用プリンタは、ほとんどの場合ゼロックスやキヤノンと言ったコピー機メーカーが「複合機」と言う形で提供しているため、その点でコピー機メーカーはそちらに軸足を移して生きながらえていました。いやむしろ、PCの普及後しばらくは、手書きの時代に比べても印刷される紙の量は増えていたはずです。ところがここ数年で状況が大きく変わり、「PCからの印刷」のニーズさえも激減していると言うのが現実ではないでしょうか。

実は、私が新卒で就職した頃から「PCが普及すれば、ペーパーレス化が進む」との予測がされていました。実際のペーパーレス化の進展は、四半世紀前の予測よりは相当に遅かったのですが、ここ数年でようやく現実が予測に追いついてきたと言えます。最近になって一気にペーパーレス化が進んだ理由は多々ありますが、私は「タブレット端末の普及」が大きな要因の一つとなっていると考えています。 


iPadが初めて実現した「真のペーパーレス」 
上述したように、PCが普及する前は「PCの普及によってペーパーレス化が進む」と予測されていました。実際にはそうなならず、PCの普及によってむしろ紙の印刷量は増加してしまったくらいです。PCによって誰でも容易に「大量の文書」が作れるようになったことに加え、最後のアウトプットとしては、PCではなく紙で見たいと言う要求は残っていました。紙で文書が見たいのは、PCでの文書閲覧の使い勝手が結局紙に敵わなかったからでしょう。紙なら簡単にできるはずの、「片手で持って、必要な時に近づけたり遠ざけたりする」と言う操作が、PCでは出来ません。

ところが、タブレット端末の出現、さらにに言うとiPadの出現によって、ようやく電子端末でも極めて紙に近い操作が出来るようになったのです。片手で持って、近づけたり遠ざけたりと言った操作が、出来るようになりました。

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私の個人的な経験で言うと、タブレットの普及前、何百ページもあるソフトウェアのマニュアルをよく印刷していました。その印刷したマニュアルを見ながら操作するのはPCの画面でした。PC画面上の文書閲覧では、同じPCにしろ違うPCにしろ、PC上でPDF化されたマニュアルを見ながらの操作は極めて不便で、紙を持ちながらの方が遥かにやりやすかったのです。

ところがiPadを購入してからは、そのような目的での紙の印刷は無くなりました。紙の文書と同じような操作が可能ですし、キーワード検索機能が使えたりと言った、紙には無い機能も提供してくれます。 

このことは、イノベーションのジレンマでも綺麗に説明できます。コピー機にとって、「(PCも含めた)電子端末による文書の表示」は、不連続な(破壊的な)技術革新でした。しかしながら、PCの時代までは、ユーザーの要求水準を満たすものではありませんでした。それでも電子端末は進化を続け、高速化・軽量化し、iPadの登場によって文書表示端末としてのユーザーの要求水準をようやく満たすことができたのです。こうなると、文書表示に関して、コピー機で印刷した紙文書から、タブレット端末での文書表示に一気に乗り換えが進んだのです。

Xerox&Apple



ここで極めて興味深いのは、PCの登場にも、タブレット端末の登場にも、「あの人物」が深く関わっているのです。 

そう、スティーブ・ジョブズです。 




そしてさらにさらに興味深いことに、スティーブ・ジョブズがマッキントッシュを世に出すにあたって、当のゼロックスが深く深く関わっているのです。 

つまり、
ゼロックスは、ジョブズがMacを作るきっかけを作り、
ジョブズの作ったiPadによって瀕死の重傷を負わされた! 
と言えるのです。 

今回のエントリはこのあたりで。
次回のエントリで、ゼロックスがどのようにMacやそのグラフィカルユーザーインタフェースの誕生に貢献したかを紹介したいと思います。