前回のエントリでは、箱根駅伝は関東の大学限定にすべきだと言う主張に対し、反論する意見を述べてきました。今日のエントリでは、最後に残った「箱根駅伝全国化反対」の最も強力な主張に対して反論をしたいと思います。

「100年近く続いた伝統は守るべき」と言う主張
「伝統」自体を守ることは私も賛成です。しかし「昔から続いているもの全て」を守る必要はないはずです。昔から続いているもの全てを守る必要があるのであれば、江戸時代300年続いた鎖国、ちょんまげ、士農工商の身分制度、これらも守る必要が生じてしまいます。いくらなんでも、そんなはずはないですよね?

「伝統」を守るうえで大切なのは、
「変えてはいけないこと」と「変えなくてはいけないこと」の見極め
だと強く思うのです。

世の中は必ず変化します。変えるべきところは変えないと、本当に守るべきものも守れなくなります。明治維新の際に、鎖国やちょんまげ、身分制度を伝統だからと言って頑なに守っていたとして、果たして本来の日本の伝統は守ることができたのでしょうか?

何を変えずに、何を変えるべきか?その見極めは簡単なものではありません。一方で箱根駅伝を対象にすれば、「本当に守るべき変えてはいけない伝統」は、案外簡単に見つかるように思います。それは、創設の理念に立ち返ることです。2つ前のエントリでも紹介しましたが、箱根創立の理念は次のようなものでした。
箱根駅伝が誕生したのは、1920年(大正9)、今から90年も前のことである。
創設の原動力になったのは、マラソンの父として知られる金栗四三らの「世界に通用するランナーを育成したい」との思いだった。

世界に通用するランナーを育成する」ことこそ、箱根駅伝が最も守らないければならない「伝統」ではないでしょうか?それを守るためには、その他のことは全て柔軟に変えていかなければいけないはずです。出場を関東の大学に限定することで、世界に通用するランナーを育成しやすくなる理由など無いはずです。関東限定では、地方出身で経済的な事情などで関東の大学に行けない才能を見いだせないことになってしまいます。

最も大切な伝統を守るのであれば、むしろ箱根駅伝は全国の大学に開放されるべきなのです。


青山学院大学原監督の視野の広さ
前回のエントリで、箱根駅伝で燃え尽きてしまいその後に伸び悩む選手も多いことを紹介しましたが、青山学院大学原監督は決して燃え尽きず、箱根の遥か先を見据えているようです。そのことが最も伝わるのは、こちらの江川紹子氏によるインタビュー記事です。是非全文ご覧いただきたいのですが、一部引用させていただきます。
なにしろ少子化で若者が少なくなる。僕は今、ライバルは早稲田でもなく、陸上界のどこのチームでもないと思っています。ターゲットは野球界やサッカー界。このままだと、元気のいい身体能力が高い子は、みんなサッカーや野球に流れてしまう。そうなると、陸上の競技人口は減り、競技レベルも下がる。
地方都市の大学が箱根駅伝に出られるようになれば、全国の陸上人口の裾野が広がって、競技レベルが上がる。それで世界と戦える人材を求める。
伝統も大事だけど、これまでの100年だけでなく、これからの100年を考えれば、(考え方の)切り口も変わってくると思う。将来の陸上界の発展を願っているなら、箱根は全国化して欲しいし、そこを変える度量と責任が欲しい。
「これまでの100年だけでなく、これからの100年を考える」
この言葉は、箱根駅伝に限らずあらゆる「伝統あるもの」に対して言えることなのではないでしょうか。

箱根駅伝の全国化を拒む真の抵抗勢力
これも箱根駅伝に限らないことですが、「変わるべきはずが変えられないこと」があるとしたら、それは利権だとか既得権益だとか言うものが影響している場合が多いようです。スポーツライターの玉木正之氏が、興味深い指摘をされています。
また箱根駅伝の放送のために日本テレビが支払っている放送権料は2億4千万円と言われている。が、「箱根」の出場大学には出走料として各大学に2百万円(20大学で合計4千万円)が支給されるだけで、関東学生陸上競技連盟が、その決算は公表されていない。
それは以前からの「慣例」で連盟は任意団体であり、決算報告の義務もなく、報告すべき上部の管理組織もないのが実情だ。が、こんな杜撰な「慣例」のままで良いはずもなく、「全国化」をきっかけに組織改革にも手がつけられるべきだろう。
この指摘についてはこれ以上の裏どりは出来ず、真偽不明の情報ではあります。しかしながら、箱根駅伝に関わる収入や支出などの経理情報を公開した情報も見つかりませんでした。玉木氏の指摘が事実だとしたら、これは確かに全国化が進まない最大の理由となるでしょう。主催者側の都合なのですから、各大学側の都合とは重みが異なります。

関東学生陸上連盟におかれましては、どうか上記の杜撰経理の指摘が事実ではないことを示す行動をとっていただきたいところです。同時に我々は、「レベルの差」だの「伝統校からの反対」だの「伝統」だのと言った、真の抵抗勢力が自身の意図を隠すために広めた偽の理由に惑わされないようにしたいものです。

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