本日も昨日に続いて「風雲児たち」についてです。
このエントリを書いている時点では、NHK版ドラマはまだ放送されていないので、原作マンガについて語ります。

このマンガの魅力の一つは、例えば、かつては「腐敗した金権政治家」とみられていた田沼意次の功績にスポットライトを当てるなど、歴史の見方に新たな一面を示すとともに、(おそらくNHK版ドラマでも大きな主題になるであろう)「解体新書」などの相当に詳細な部分に深入りすることにあります。このように書いてしまうと、真面目な歴史書のように受け取られてしまうかもしれませんが、これも昨日のエントリに書いた通り、本質は相当にラジカルなギャグマンガです。

ただ、読者の立場で長い連載を改めて振り返ると、そのギャグのテイストが時期によって大きく異なっていることに、この原稿を書きながら気づきました。強烈かつナンセンスなギャグは、関ヶ原から田沼時代までが絶頂期で、江戸後期から幕末頃になると、ギャグのテイストもかなりマイルドになっています。それは、連載が進むにしたがって原作者のみなもと太郎先生が、より歴史の細部を描くことに目覚めたのであろうと考えられ、それはそれで魅力が増していると言えます。

しかしながら、個人的な好みからすると、ギャグも冴え渡り、前野良沢、平賀源内、田沼意次、林子平・・・と言った強烈な登場人物が揃った蘭学黎明期こそ最も印象に残っています。おそらくNHK版ドラマを企画した人も同じ発想だったのでしょう。この時代の原作マンガのエピソードを、どのように実写ドラマで料理するのか、楽しみです。

さて、本日のエントリでは、この私の楽しみと言うか期待感を、多くの皆様にも共有していただくべく、原作マンガの印象的な一場面を、セリフと情景描写で文字起こししてみました。前野良沢、杉田玄白、中川淳庵の3人が、オランダ語で書かれた医学書の翻訳を始め、当初は全く進められないながらも、一つのきっかけを掴んだ際のエピソードです。
このエピソードは、作者のみなもと太郎先生自身が「創作した話」と認めたフィクションであり、オランダ語ではなく(読者に解りやすいように)英語で表現されているなど、歴史的には不正確なエピソードですが、外国語翻訳のノウハウの全く無いところから医学書の翻訳を完成してしまうと言う、とてつも無い偉業のとっかかりエピソードとしては、極めて印象的なものになっています。

ーーーーー以下、原作「風雲児たち」からの引用(実際はギャグマンガーーーーー
前野良沢、杉田玄白、中川淳庵の3人でオランダ語の医学書「ターヘルアナトミア」の翻訳を始めるが、一向に進まない。それもそのはず、彼らにはオランダ語はもちろん、外国語の知識など何もなく、ターヘルアナトミア以外にあるものは、青木昆陽が書いた「和蘭文字略考(700個程度の基本的なオランダ語単語の和訳が記されている)」と、蘭々辞典(オランダ語の単語をオランダ語で説明した辞書)だけだった。
そん中、当初翻訳が一向に進まず、進め方の方針にちょっとした食い違いが起こってしまう。前野良沢は3人での翻訳作業を諦め、1人で進めようとするが、巨大化した(ギャグ表現ね)杉田玄白と中川淳庵は、二人して前野良沢に噛り付く。

順庵:「じえ〜ったいあなたにかじりついていきますぞ〜」
玄白:「良沢殿〜 われらとてこの書を読みたい気持ちはけっして貴公に劣りませぬぞ〜」
良沢:「ひぇ〜〜 食べないでください〜」
玄白:「食べられなくなかったらこの会を続けるのだ〜〜」(繰り返しますが、ギャグ表現ですからね)
良沢:(二人をボカリと殴って)「おまえらはジョーズかっ」(巨大人食いザメを描いた映画JAWSに絡めたギャグ)

良沢:「は?」
玄白:「ジョーズ・・・?」
順庵:「ジョーズ・・・・とは?」
良沢:「はて・・・ おもわず口をついて出たが   たた、たあへるあなとみあっ」
玄白&順庵:「はいーっ」
良沢:「図版を見るのだ 図版のトコロを」

(しばらく沈黙)
良沢:「ない・・・・・」

良沢:「どーしてないのに口から出たのだろう」
玄白:「『たあへるあなとみあ』で見たのではないのでござらぬか?」
良沢:「それなら絶望だが・・・念のため青木昆陽先生の『和蘭文字略考』を」

良沢:「あった〜! 『じゃわす』とは『顎』の意、J・A・W・Sの四文字にござる〜」
玄白:「和蘭文字略考の方で覚えておられたのか・・・・」
順庵:「しかしそれなら図版に無いのはどういうわけでござる」
玄白:「それがわからぬ・・・」
順庵:「ますます謎はふかまり申した」
良沢:「別な言葉を用いて表現しているのかもしれん・・・・」
玄白:「なるほど日本語でも顎を『おとがい』と申すこともある・・・・」
順庵:「そういうヒキョウなことをされてはたまりませんな」
良沢:「静かに。玄白殿、もう一度図版の顎の絵を調べなおしてくだされ。拙者は『蘭々辞典』に挑む」
順庵:「エライ楽しそうな辞典で・・・・」(ランランに引っ掛けたギャグ)
玄白:「うにょ〜し こんどこそは・・・・」

良沢:(蘭々辞典を見ながら)「『JAWS』の項目は確かにござる。この説明文のなかに図版の顎についている単語が出て来ればしめたもの」
玄白:(ターヘルアナトミアを見ながら)「顎の絵には二つの言葉が二つ並んでござる。二つとも下の単語はJ・A・W」

(ターヘルアナトミアの図版には、人間の顎の図があり、上顎には『UP JAW』、下あごには『DOWN JAW』と記されている)
玄白:「これだ・・・なにゆえ『S』の字をとりはらっておるのでござろう・・・二通りあるのがわからぬ・・・・」


良沢:「『JAWS』と『JAW』が同じ意味とはかぎらぬ。『ねこ』と『ねこむ』、『うし』と『うしろ』はまったく違う・・・・」
玄白&順庵:「しかし『JAWS』は確かに顎で、顎の絵に『JAW』とある以上、かけはなれたものとは思えませぬ。
良沢:「辞典の『JAWS』にも、たしかに『JAW』が出てくる・・・しかし他の単語がまったくわからぬ」

玄白:「では上についてる『UP』と『DOWN』を調べてくだされ
良沢:「もう調べておる。えーと・・・『NOT』・・・これは知ってる!!否定をあらわす『ニ非ズ』という意味だ」

良沢:「だいたい・・・わかった」
玄白&順庵:「さすが良沢先生!していかなる意味で?」

良沢:「『UP』とは『DOWNに非ず』の意」
(目をむいて聞く他の二人)
良沢:「『DOWN』とは『UPに非ず』の意」
(ズッコケて、ひっくり返る二人)

玄白&順庵:「結局な〜んにもわからぬのでござるな〜〜〜〜」
良沢:「そんなことはない。この二語はおそらく基本的な言葉とでも申すか・・・
    別の言葉に置きかえ洋物ないあまりにもあたりまえな言葉であるに違いない・・・・
    それも対照的な言葉であろう。例えば前と後ろ!」
玄白&順庵:「な、なるほどっ。前は後ろの反対、後ろは前の反対!」
良沢:「よ・・・・読めてきた・・・すなわちこの『UP』と『DOWN』はね・・・・・」

玄白&順庵:「上と下!!」

良沢:「わしより先に言うな〜〜〜〜〜っ!」
(怒り狂う良沢と、一目散に逃げる玄白と順庵のギャグ表現)

(涙する3人)
(ひしと抱き合う3人)

ーーーーー以上、原作「風雲児たち」からの引用(実際はギャグマンガーーーーー

さて、ギャグマンガを文字だけで起して、どれだけ伝わりましたかどうか。
このエピソードは、単行本の第4巻に収録されていますので、気になった方は是非原作を購入してマンガとして読んでみてください。
風雲児たち 4巻 (SPコミックス)
みなもと太郎
リイド社
2013-09-20



このエピソードは、NHKドラマでも、かなりの確度で再現されると思うのですが、いかがでしょうか?
ドラマの放送を待ちたいと思います。

風雲児たち