注:このエントリを実際に執筆しているのは、2012年が明けてからのこと。ただし文章の構想を練っていたのは2011年末であり、時系列をすっきりさせるために、エントリの日付を2011年末とさせていただいた。 

震災当日の出来事と、そこから得られた教訓については、一昨日昨日のエントリにまとめた。今日のエントリでは、震災後数日間の少々特殊な生活について記録しておく。


■震災後一週間の「在宅勤務」
私が勤務するシトリックス・システムズ・ジャパン(株)は、震災後数日間の社員へのケアに関しては、かなり胸を張って自慢できるような素晴らしいことが出来ていたと思う。これはおそらく、他の企業のモデルケースにもなりえると考えるので、ここに詳しく説明しておく。

震災が発生したのは金曜日。その後の土曜日と日曜日は当然会社を休むとして、「震災3日後の月曜日の勤務をどうしたか?」については、企業によって対応がまちまちだったのではないかと思う。シトリックスでは、震災翌々日の日曜日に全社員に次のような内容の通達がまわってきた。「月曜日は会社には来るな。基本は在宅勤務しろ。もちろん休暇でもOK。」

この通達には重要なポイントが2つある。

ポイント1つ目は、「出社しなくて良い」ではなくて、「出社するな」だったこと。この2つは似ているようで似ていない。3月11日の震災後しばらくは、実際に余震も度々起きていて、遠方に通勤することと、それによって家族と離れることに関しての安全性の懸念は、拭い去ることは出来なかった。家族の安全を思えば家を離れたくないが、まだまだ多くの日本人のマインドには、家族と言う「私」よりも企業人としての「公」を優先することを美徳とする文化は残っている。「出社しなくてよい」と言う通達では、使命感の強い一部の人々は仕事を優先して会社に来るだろうし、必要以上に悩んでしまう人も多いだろう。その点、「出社するな」と言う通達は、安心して家族と一緒にいられる実にありがたい通達だった。

2つ目のポイントは、「休暇を取れ」ではなくて「休暇を取っても良いけど、基本は在宅勤務しろ。」だったこと。この通達も、社員には実にありがたかった。震災後しばらくは、家族と離れたくない気持ちが強い一方で、仕事が完全に無くなるわけでも忘れられるものでもない。また、強制的に有給休暇を消化させられることに不満を持つ人もいるだろう。多くの日本企業が、少なくとも日常では「会社に行って仕事をする」か、「休暇をとって家に居る」かの2つの選択肢しか用意していないため、今回のような非常時には、その狭間で悩むことになってしまう。
幸いなことにシトリックスでは、「在宅勤務」は制度的にもITインフラ的にも普段から認められていたことなので、震災後に在宅勤務を標準にすることに迷いは無かったようだ。家族と一緒に過ごしながら、お客様などへの迷惑を最小限にできるよう必要な仕事を進めることが出来たことは、公私両面で安心できる材料となった。

冒頭にも申し上げたとおり、これらシトリックスの対応は、十分にモデルとして他の企業の参考にしてもらえるものと自負している。会社としても、下記のような広報記事を作っているので、是非参照していただきたい。

「震災後、シトリックスの在宅勤務を支えた2つの制度」


■計画停電
震災後しばらくの間、我が家がもっとも悩まされたのは、余震でも物資不足でもなく、この「計画停電」だった。停電中の不便や不安もさることながら、大きな不満を感じたのはその「不平等さ」だろう。首都圏の家庭や企業が、均一に停電にあうなら「仕方がない」と言う気も起きるが、しばらく後に同僚に聞いたところによると、大多数が「一度も停電などしていない。」と言っていた。いったいどのような基準で、「停電してはいけないところ」と「停電してもよいところ」が区分けされたのだろう?一般家庭である我が家はまだ「不安」「不便」「不満」で済んだが、計画停電によって経済的・経営的な打撃を受けた企業の怒りはどれくらいだったのだろうか。

今更怒ってみても生産的ではないので、計画停電によって「貴重な学習が出来た」と割り切っている。せっかくなので、今後同じような「計画停電」が行われる場合の教訓を、広く共有しておきたい。ただし、これはあくまでも「一般家庭」としての対策である。残念ながら企業様には役に立たない。

・一番良いのは外出すること
計画停電は、ある程度の地理的な範囲に限定して行われるので、その範囲から抜け出れば全く別世界となる。車などが使えて簡単に抜け出せるものなら、停電エリアを脱出してしまうのが、一番有効な対策となる。ただし「脱出」は停電実施前がのタイミングで行うのが望ましい。なぜなら信号機も止まってしまうので、クルマでの走行も危険を伴うからだ。

・二番目は「寝る」こと
停電がある程度遅い時間なら、布団に入って寝てしまおう。これも停電自体が基本的に気にならなくなる。ただし、停電解除時の電気周りのチェックはすべきなので、例えばお父さん一人くらいは、停電解除後に起きたほうが良い。

・冷蔵庫に食糧を溜め込みすぎない
上記の「外出する」あるいは「寝る」の対策を取っても、悩みとして残るのは冷蔵庫の食糧のことだ。この時の計画停電は、幸いなことに寒い時期だったので大きな被害はなかったが、生肉や冷凍食品などは、過度に溜め込むべきではないだろう。

・iPadでのYouTube動画視聴は、かなり使える
3時間近い計画停電の間、ほぼ真っ暗な中で「何も出来ない」と言うのは、かなりストレスが溜まる。我が家で役に立ったのは、iPadを使ってYouTubeの動画を再生して家族で楽しむことだった。事前にフル充電しておけば、iPadのバッテリーは停電期間中も十分に持ってくれるし、3G回線も生きていてくれた。もちろん、iPadでなくても、バッテリーで動作可能なノートPCなら同様なことが出来るはず。


もちろん、二度と同じようなことは経験したくはない。「計画停電」は、地震のような天災とは違って、防ぐことは十分に可能だと思うのだが。