昨日のエントリ(AndroidタブレットはiPadを凌駕するか?)では、Androidタブレットが市場シェアにおいてiPadを凌駕することは相当に難しいであろうと予測した。その理由として、Androidタブレットの売りであるところの「オープン性」は、巷で信じられているほど武器にはならないことを挙げた。今日のエントリでは、さらに詳細な理由に踏み込んでみたい。

なお、私がこれから述べる意見と、ほぼ正反対の意見(『iPad』がAndroidに敗れ去る5つの理由)をWebで見つけたので、今日のエントリでは、その記事への反論も意識して書いている。



まずAndroidタブレット苦戦の理由を述べる前に、「オープンであることの良さ」を改めて復習したい。具体例としてかつての「WindowsとMac OSのシェア争い」のケーススタディで考える。

●オープンの良さ(その1) ~デバイス価格の下落~
Mac OSは、Macintoshハードしか選択肢が無いが、Windowsはハードウェアに対してオープンであり、デバイスメーカー間の競争によってハードウェアコストが下落した。
トータルコストでMacintoshよりもWindows PCが安くなり、それがWindowsの市場競争力の強化となった。

●オープンの良さ(その2) ~サードパーティ製品の充実~
Mac OSに比べオープンなWindowsのほうが、サードパーティベンダが参入しやすくなり、サードパーティ製品(特にアプリケーション)が質・量とも充実した。それら質・量豊富なサードパーティ製品を含めたトータルソリューションとして、Windowsの競争力が増した。

●オープンの良さ(その3) ~ユーザの操作の容易さ~
ハードウェアに対してオープンなWindowsは、どのハードウェアメーカのPCでも共通の操作を提供できる。IBMだろうが富士通だろうがNECだろうがDellだろうが、全て共通の操作であり、特にPCに詳しくないユーザが「誰かに助けを得る」ことを容易にする。

さて、上記のようなかつてWindowsの競争力を高めた「オープン性」は、Androidタブレットも享受できるだろうか?結論は「否」である。

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さてここからが本題。
下記が「AndroidタブレットがiPadにどうしても勝てない3つの理由」

■理由1 Androidタブレットの価格競争力優位は非常に限定的
確かに一部のAndroidタブレットは非常に安い。約5万円のiPad(しかも値引きはほぼ無し)に比べ、半分以下の価格で売られているものも多い。

それでは、あるAndroidタブレットが仮に2万円だとして、「2万円 vs. 5万円」の戦いは、圧倒的に2万円が有利だろうか?
もちろん機能・性能・品質が同じであれば有利であるが、「20万円 vs. 50万円」(かつてのWindows と Mac の差は、本当にこれくらいだった)の差よりは遥かに優位性は薄れる。
(そしてもちろんAndroidタブレットとiPadの機能・性能・品質は同じではない)

さらには、iPadと同じようなタブレットを2万円で売っているメーカは、決してコスト的に余裕を持って2万円で売っているわけではない。ハードウェアの製造コストは、「同じ仕様の部品を、どれだけ大量に生産できるか?」で決まる。その点では、既に市場である程度のシェアを占めているiPadは大いに有利だ。また、Appleはハードウェアの製造コストが多少赤字でも、別の手段でコストを回収できる方法(iTunesストア)を確立している。
Appleは、iPadの販売価格を下げようと思えば、いつでも下げることができるのだ。現時点でのAndroid陣営の価格優位は、Androidタブレットのメーカが無理をしているか買い叩かれているだけであり、コスト構造的に優位とはいえない。


■理由2 サードパーティ製品の質・量でのiPad優位は当面揺らがない
上で「オープンの良さの一つは、サードパーティ製品の充実」と書いたが、実はわざと正確でない書き方をした。真実としては、オープン性はサードパーティ製品充実のための「ひとつの理由」にはなるかもしれないが、「決定的な理由」にはならない。

サードパーティベンダーにとって、プラットフォームが「オープンか、閉鎖的か?」は、実は大して重要ではないことだ。もっとも重要なのは「市場で優位か、優位でないか?」なのだ。つまり、サードパーティ製品のベンダーは、「自社の製品がより多く売れるプラットフォーム」を選ぶと言う、ある意味当たり前のことをしているに過ぎない。かつては、MacよりもWindowsのほうが市場優位だったのでサードパーティ製品が充実し、それにともなってさらに市場優位になる・・の好循環の繰り返しが起きた。いわゆる「デファクトか否か」が重要なのだ。「オープンか否か」は重要ではない。

翻ってAndroidタブレットとiPadの比較。iPod/iPhone時代からの蓄積によるサードパーティ資産によって、既にiPadのサードパーティ製品は圧倒的な質・量両面での充実度を誇っている。さらには現時点での圧倒的市場優位も出来上がっている。後は好循環が繰り返されていくだろう。

純粋に技術的な観点でも、AndroidよりもiPadのほうがアプリケーションは作りやすい。Appleは、十分なドキュメントとツールを提供しているし、Androidのハードウェアの統一性の無さが、アプリの作成をさらに難しいものにしている。例えばディスプレイサイズひとつ取っても、様々なバリエーションのあるAndroidでは、それら全てを考慮しなければいけない分、アプリ作成・テストのコストもかさんでしまう。iPadなら、ディスプレイサイズもハードウェアの仕様も統一されている分、作成・テストの手間が省かれる。
もっと細かい話をすると、「基本的に最新のiOSに対応していれば、それで良し」のiPadアプリに対し、Androidアプリの場合は相当に仕様の異なる複数のバージョンに対応しなければいけない。これもアプリベンダにとっては、大きな負担となる。


■理由3 Androidタブレットは、メーカ間・機種間の操作性に統一感が無い
現状でAndroidのGUIの品質全般は、iPadに比べると「まだまだ」であることに反論を唱える人はいないだろう。もちろん、この「まだまだ」は、時間が経てば追いつき追い越す可能性は大いに含んでいる。

しかしそれでも、iPadの優位は動かない。なぜなら、AndroidタブレットのGUIの向上が、本家本元Googleだけでなく各デバイスメーカが独自に取り組んでいるため、メーカや機種が変わると、操作方法も大きく変わってしまうためだ。初心者ユーザにとっては、この「操作方法が機種ごとにバラバラ」は、大きな大きな障壁になる。

既にお年寄りや小さな子供と言った、これまでPCにさえ触れなかった「全く新しい市場」を開拓し始めたiPadに比べると、Androidタブレット陣営はそのような市場とかけ離れていく一方となっている。各デバイスメーカがGUIの向上に努力すればするほど、統一性が薄れ、かえって使いにくくなってしまうのだ。

ここまで読んでいただいたうえで、「いやそんなことはない。Androidタブレットは早々にiPadを凌駕する」と考えている人は、是非反論をいただきたい。

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2012年1月28日追記

その後Appleは、「学校教科書の電子化」と言う市場に、万全のビジネスモデルを用意した上で進出し、さらにAndroid陣営がAppleに追いつくことを困難にしてしまった。
それに対する山田の見解は、下記のエントリにて。