この本、いわゆる「ハイテク業界」の人間なら、それこそ誰でも読んでいるくらい有名な本。
キャズム

ジェフリー・ムーア著「キャズム」(原題:Crossing the Chasm)

この本で紹介されている下記の図はさらに有名。
キャズム図

読む価値のある本なので興味のあるかたは是非読んでいただきたい。本を購入するための金額と読むための時間のおしいかたは、Googleで「キャズム」と検索すれば、この図の意味を説明したページはたくさん見つかる。さらに検索の時間も節約したいかたは、下記の山田流に要約をどうぞ。

・画期的なテクノロジを用いた製品の場合、ハイテクオタク(Tech enthusiast)が真っ先に購入し、進歩派(Visionaries)が続く。

・さらにその後に実利主義者(Pragmatists)や保守主義者(Conservatives)が購入するようになると、製品の販売は大きく伸びる。

・ところが進歩派の購入動機と実利主義者の購入動機は大きな隔たり(キャズム)があり、進歩派に対して成功したマーケティング戦略は、実利主義者には通用しない。

・ハイテク製品で商業的な成功を成功をおさめるには、この隔たり(キャズム)を意識して、実利主義者に訴えるマーケティングを行わなければいけない。

具体的な例を出すなら、iPhoneは、2011年現在では完全にキャズムを超えて実利主義者に浸透したと言えるだろう。ところがほんの1年前の2010年の時点では、iPhoneを使っていたのは一部の進歩派のみだった。(ちなみにiPhoneの日本での発売は2008年7月より)

この場合、iPhoneは「キャズムを超えた」と言われる。ハイテク業界では、「○○はもうキャズムを超えたよね」だとか「△△は、なかなかキャズムを超えられないね」などと言う会話を普段から交わしていたりするのだ。

少し本題から離れるが、iPhoneがキャズムを超えられた理由を、「キャズム」に書かれた理論を基に、私なりに考察してみた。普通に考えて価格面での下落は大きな要素であるが、「競合の参入(具体的にはどドコモやauによるAndroidベーススマートフォンの登場)」も、(意外な事実であるが)iPhoneがキャズムを超えられた重要な成功要因だと考える。

キャズム理論によると、実利主義者は製品の性能や機能だけでなく信頼性も重視する。実利主義者にとってAppleは電話機の会社としては信頼できると言えないし、かつてiPhoneの販売を日本で独占していたソフトバンクも、携帯キャリアの中では新興だ。ところが、実利主義者にとっての信頼度No.1のNTTドコモがスマートフォン市場に参入したことによって、少なくともスマートフォンへの信頼性は大いに高まった。そしてスマートフォンを購入する前提で、iPhoneとAndroidを比較すればiPhoneに有利な点が多々あることになる。こうして、新しいものにはすぐには飛びつかない実利主義者や、果ては保守主義者までiPhoneを使うようになったのだ。

話はさらにずれるが、日本からシンガポールオフィスに転勤していた同僚が、約2年ぶりに出張で日本に来てくれた。彼いわく、2年ぶりの日本で最も驚いたことは急速なスマートフォンの普及の度合いだったとのこと。今は電車の中で見る携帯電話の半数以上がスマートフォンだが、確かに2年前は皆無に近かった。


------------------------------
さて、ここからが実は今日の本題!!

「キャズムの存在とその意味」については、ハイテク業界にいる人間ならたいてい知っている。ところが、「どうすればキャズムを超えられるか?」と言う具体的な手法までは、意外に知られていない。

「キャズム」本には、超えるための具体的な手法も懇切丁寧に書かれているのではあるが、それなりに複雑な手法であるし、なによりもあの曲線グラフのインパクトが強すぎて、読後に手法がしっかり頭に残っている人は少ないのだろう。

本日のエントリのタイトルである「エレベータテスト」は、本で紹介されているキャズム超え手法のひとつだ。実利主義者に訴えるためには、短くてわかりやすいメッセージでその製品を伝える必要があるのだが、エレベータに乗っているくらいの短時間で製品を説明できるかどうかで、キャズムが超えられるかどうかが決まる。逆に言えば、エレベータテストに合格できるようなメッセージを作ればキャズムが超えられる可能性は高まるのだ。

「キャズム本」で提唱されている、エレベータテストに合格できるメッセージを作るための雛形は下記の通り。

この製品は
[ 1 ]で問題を抱えている
[ 2 ]向けの
[ 3 ]の製品であり
[ 4 ]することができる。
そして、[ 5 ]とは違って
この製品には[ 6 ]が備わっている。

1 : 現在使われている手段 
2 : 橋頭堡となるターゲット
3 : この製品のカテゴリー
4 : この製品が解決すること
5 : 対抗製品
6 : 対抗製品と差別化する機能

「例」として、iPhoneでやると次の通りか。

Apple iPhoneは、
[携帯電話、PDA、携帯音楽プレーヤーなど複数デバイスの持ち運びと使い分け]で問題を抱えている
[若年層ビジネスマン]向けの
[スマートフォン]製品であり、
[すべてのデバイスの機能がひとつにまとめられたうえに素晴らしい操作性を体験]することができる。
そして、[機種ごとに操作方法に違いのあるAndroidベースのスマートフォン]とは違い、
Apple iPhoneなら[一貫した分かりやすい操作によって、誰でも簡単に使いこなす]ことが出来る。



さてこの雛形をXenAppに当てはめるとどうなるだろう?かなりたくさんのメッセージが出来るように思えるが、11月11日時点では、下記2作品。

【作品No.1】
Citrix XenAppは、
[新種のサイバーアタックからの防御]で問題を抱えている
[製造業・金融業・政府機関]向けの
[ネットワークセキュリティ]製品であり、
[インターネットへの出口対策の徹底することで情報漏洩を防止]することができる。
そして、[コンテンツフィルタリング製品や]とは違い、
XenAppなら[原理的に外部への情報漏洩を防止する]ことが出来る。


【作品No.2】
Citrix XenAppは
[自社製市販アプリケーションのSaaS対応]で問題を抱えている
[中小アプリベンダー]向けの
[アプリケーションのネット配信]の製品であり
[既存のWindowsアプリをすぐにSaaS化する]ことができる。
そして、[一般的なWebベースのSaaS]とは違って
[ドラッグ&ドロップなどのWindowsのUIをそっくりそのままネット配信の形で提供]できる